AI時代のバイナリ解析環境「DeepHex」プロジェクトを公開します

合同会社Indigoは、新しいバイナリ解析環境 「DeepHex」 の開発を開始しました。
DeepHexは、実行ファイルやライブラリなどのバイナリを開き、解析結果を確認しながら、AIと対話して調査を進められる環境を目指すプロジェクトです。
DeepHexを作る理由
バイナリ解析やリバースエンジニアリングでは、逆アセンブル結果、疑似コード、文字列、シンボル、関数の呼び出し関係など、さまざまな情報を行き来しながら対象を理解していきます。
しかし、解析対象が複雑になるほど、次のような作業に多くの時間がかかります。
- 膨大な関数の中から重要な処理を探す
- 不自然な入力処理や危険なメモリ操作を見つける
- ライブラリ関数やシステムコールの役割を整理する
- 疑似コードからプログラム全体の意図を推測する
- 調査結果を記録し、後から再確認できる形にまとめる
AIは、こうした情報の整理や仮説の生成を支援できます。
一方で、単にバイナリや疑似コードをチャット画面へ貼り付けるだけでは、解析環境として十分とはいえません。
必要なのは、バイナリ解析ツールとAIが分離した状態ではなく、解析中のコンテキストをAIと共有しながら調査できる統合環境です。
DeepHexは、そのためのバイナリ解析環境を目指します。
DeepHexが目指す体験
DeepHexでは、バイナリファイルを開くと解析画面が立ち上がり、関数一覧や逆アセンブル結果、疑似コードなどを確認できます。
解析中に気になる処理を見つけた場合は、その場でAIに質問します。
たとえば、次のような使い方を想定しています。
- この関数が行っている処理を説明してほしい
- 外部入力がどこまで渡されているか追跡してほしい
- バッファオーバーフローにつながる可能性を調べてほしい
- 暗号化、圧縮、難読化に関連する処理を探してほしい
- 調査すべき関数の優先順位を提案してほしい
- 現在までに分かったことを整理してほしい
AIが解析をすべて自動で完了させるのではなく、人間の解析者が判断するための材料を増やし、調査の速度と解像度を高めることがDeepHexの目的です。
AIに解析を丸投げしない
DeepHexが目指しているのは、ボタンを押すだけで「脆弱性あり」「脆弱性なし」と判定するブラックボックスではありません。
バイナリ解析では、対象の用途、実行環境、入力条件、攻撃経路などによって、同じコードでもリスクの意味が変わります。
そのため、最終的な判断には人間の知識と検証が必要です。
DeepHexでは、AIを解析者の代わりではなく、次のような役割を持つ支援者として位置づけます。
- 解析結果を整理する
- 見落としやすい箇所を提示する
- 仮説を生成する
- 関連する処理を結びつける
- 次に調べるべき対象を提案する
解析の主導権は、あくまで利用者が持ちます。
利用者自身のAIアカウントを活用する
DeepHexでは、AIモデルそのものをサービス側で一括提供するのではなく、利用者が自身のAIアカウントやAPI環境を利用できる設計を検討しています。
これにより、利用者は用途や予算、所属組織のポリシーに応じて、使用するAI環境を選択できます。
また、DeepHex側は特定のAIモデルだけに強く依存せず、バイナリ解析環境としての価値に集中できます。
まずは実用的な解析環境を作る
DeepHexは現在、開発初期のプロジェクトです。
最初から完全自動の脆弱性検知システムを目指すのではなく、まずは日常的なバイナリ解析で実際に使える環境を作ります。
初期段階では、次のような機能を中心に検討しています。
- バイナリファイルの読み込み
- 関数、文字列、シンボルなどの解析情報の表示
- 逆アセンブル結果や疑似コードの閲覧
- 選択した関数やコードに対するAIへの質問
- 解析メモや調査結果の保存
- 脆弱性の可能性がある処理の調査支援
機能や提供方法については、実際の開発と検証を通じて変更する可能性があります。
プロジェクトを公開しながら開発する
DeepHexは、完成してから突然発表するのではなく、開発の過程も含めて公開していきます。
Indigo Blogでは今後、次のような内容を発信する予定です。
- DeepHexの設計思想
- バイナリ解析エンジンの選定
- Ghidraなど既存ツールとの連携
- AIへ渡すコンテキストの設計
- セキュリティとプライバシーへの配慮
- 実際の解析フロー
- 開発中に見つかった課題と改善内容
バイナリ解析、リバースエンジニアリング、AI、セキュリティの交差点にあるプロジェクトとして、技術的な試行錯誤もできる限り共有していきます。
おわりに
AIによって、ソフトウェア開発の方法は大きく変わり始めています。
同じ変化は、バイナリ解析やリバースエンジニアリングの世界にも起こるはずです。
DeepHexは、AIにすべてを任せるためのツールではありません。
人間がより深く、より速く、より広い視点でバイナリを理解するための環境です。
まだ開発は始まったばかりですが、実際に使える形まで着実に作り上げていきます。
今後のDeepHexプロジェクトに、ぜひご注目ください。